【現場の実録】「売上目標」はあるのに「接客目標」がない店舗の盲点――「ハワイに行くぞ!」と叫ぶだけの旗振りになっていませんか?

講師ご紹介

株式会社 チェッカーサポート
CS部 講師
台信 好美 だいのぶ よしみ
小売業を経て、株式会社チェッカーサポートに入社。複数店舗のレジ部門マネジメントを担当し、現場の課題解決や人材育成に尽力する。
現在は、小売業の店長・管理職および教育担当者を対象とした、マネジメントや接客指導の研修を実施。現場に即した「OJT」と、体系的に学ぶ「オフJT」の双方を掛け合わせた実践的なアプローチを得意とし、従業員の自主性と組織全体のコミュニケーション力向上を支援している。

 

日頃、さまざまな店舗で店長や管理職向けの研修に登壇する中で、「目標設定」をテーマにお話しする機会が多くあります。また、研修室の中だけでなく、実際の売り場に入り込んで行うOJTを通じて、店長と一緒に目標達成に向けた現場サポートに日々伴走しています。
 
そうして現場に入らせていただく中で、よくお見かけする光景があります。
 
店長が一生懸命に考えて掲げたものが、具体的な目標というよりも「スローガン(掛け声)」のようになってしまっていたり、せっかく素敵な目標を立てたのにスタッフに浸透せず、バックヤードの壁にただ飾られたままになっていたりする場面です。
 
決して店長たちの熱意が足りないわけではありません。お店を良くしたい、スタッフと一緒に成長したいと強く願っているからこそ起きる、とても自然なすれ違いなのです。
 
その背景には、「数字の目標」ばかりが細かく設定されている現状があります。店舗の事務所を覗くと、ホワイトボードには毎月、びっしりと数字が並んでいます。「今月の売上予算〇〇万円」「前年比105%」「客単価アップ」「会員獲得目標〇件」……。
 
このように、売上や利益といった「数字の目標」は、どのお店も非常に細かく設定されています。
では、その数字を支えるはずの「接客の目標」はどうなっているでしょうか。
 
朝礼やミーティングで店長から飛ぶ言葉といえば、
「今月はもっと笑顔でいこう!」
「お客様に寄り添った、丁寧な接客を心がけて!」
「活気のある挨拶を徹底しよう!」
といった、精神論の掛け声ばかりになっていないでしょうか。
 
数字に対しては「こっちだよ!」と厳しく旗を振るのに、肝心の接客については曖昧な号令だけ。これではスタッフもどう動いていいか分かりませんし、どれだけ壁に貼ってあっても、日々の行動にまで浸透していかないのは無理もないことなのです。

研修でいつもお伝えする「旅行」の例え

なぜ「笑顔で丁寧に」という旗振りだけでは現場が動かないのか。
私の研修では、接客の目標設定をいつも「旅行の計画」に例えてお伝えしています。
 
■目指す接客の目標=「目的地(ハワイ)」
接客力を上げることで、「このお店(あるいは自分自身)がどうなっていたいのか?」というありたい姿や目指す状態です。「お客様が笑顔で『また来るね』と声をかけてくれる店」「地域で一番居心地の良い売り場」といった、ワクワクする行き先そのものです。
 
■笑顔や挨拶=「交通手段(飛行機や船)」
そのハワイという目的地に辿り着くために選ぶのが、「笑顔」や「挨拶」「丁寧なお声がけ」といった日々の接客行動(乗り物)です。
 
現場でよく起きているのは、「どこへ向かうのか(どんな店・スタッフになりたいのか)」という行き先を共有しないまま、「飛行機でも船でもいいから、とにかく乗れ!」と、手段ばかりを押し付けている状態です。
 
目的地が見えていないスタッフからすれば、「なんでそんなに笑顔を作らなきゃいけないの?」「なんのために挨拶を徹底するの?」と疲弊してしまうのは自然なことです。
一方で、「ハワイに行くぞ!」と目的地だけを掲げても、そこへ向かう具体的な行動が分からなければ、スタッフは迷ってしまいます。
 
 

「接客の目標」を日常の行動に落とし込む4つのポイント

「ハワイという目的地」を目指すために、スタッフが今日から迷わず乗れる「乗り物」をどう手渡すか。そのために必要なのが、次の4つの視点です。
 
①誰が見ても同じ場面が頭に浮かぶくらい具体的にする
「元気な挨拶」といった人によって解釈が分かれる言葉ではなく、「お客様とすれ違うときは、1秒ほどお客様の顔を見て『いらっしゃいませ』と届ける」。
 
②測れる形(回数や場面)にする
「積極的な声かけ」ではなく、「カゴを持ってお探しの様子のお客様に、1シフトで3回声をかける」。
 
③高すぎず「ちょっと背伸び」で届くレベルにする
最初から完璧を求めず、今のスキルで「意識すれば確実にできる一歩」の乗り物を選ぶ。
 
④「いつ、どの場面でやるか」を決める
「いつでも意識して」ではなく、「レジのピーク時」「入店後すぐのファーストアプローチ」など、発動する場面を特定する。
 
「この乗り物に乗れば、あの目指す場所(ハワイ)に行けるんだ」と実感できて初めて、スタッフは「今日、自分が何をすればいいのか」を自律して考えられるようになります。
 

リーダーの仕事は、数字を降ろすことではない

店長や管理職の本当の役割は、本部から降りてきた予算をそのまま右から左へ流して「頑張れ」とハッパをかけることではありません。
「接客を通じてどんなお店・スタッフになりたいのか(目的地)」を一緒に描き、そこに辿り着くための「乗り物(具体的な行動)」を一人ひとりに手渡してあげることこそが、現場マネジメントの真髄です。
 
私が企業で行っているマネジメント研修や現場OJTでも、この「目指す姿を共有し、スタッフが迷わず動ける行動目標へと落とし込む技術」を店長たちと徹底的に実践しています。
 
――ただし、ここで一つ大切なことがあります。
 
実は、「納得のいく具体的な目標が立った」というのは、マネジメントのスタートラインに立ったに過ぎません。
目標は、立てて満足して終わりではないのです。

旅行に例えるなら、行き先(ハワイ)が決まったとしても、「いま自分たちがどこに立っているのか(現在地)」が分からなければ、どの切符を買えばいいのか判断できません。そして、旅の途中で迷子になったり脱落したりしないためには、日々の具体的な「旅のしおり(ルート設計)」が欠かせないのです。

目標という目的地に向かって、まずはスタッフの「現在地」をどう見極めるのか。そして、迷わず進める「確かな道筋」をどう一緒に描いていくのか。 その「立てた後」にこそ、店舗の成果を分ける本当のマネジメントがあります。

次回に続く…

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