カスハラ対策義務化の落とし穴!お客さまの「大声」をすぐ拒絶する前に、私たちができること

こんにちは!ヒトトセ編集室です。

今回は、数々の接客現場を立て直してきた当社CS部講師、台信 好美(だいのぶ よしみ)による特別寄稿をお届けします。

近年、現場で大きな課題となっている「カスタマーハラスメント(カスハラ)」について、接客教育の視点から考えます。


講師ご紹介

株式会社 チェッカーサポート
CS部 講師
台信 好美 だいのぶ よしみ
小売業向けのレジ部門に在籍し、店舗のレジ運営管理・スタッフ育成を行う。その後、チェッカーサポートに入社。複数店舗のマネジメントを担当し、レジ運営管理・スタッフ育成を行う。主に小売業の接客教育担当者へ研修を実施。従業員の自主性及びコミュニケーションカ向上を目的とした研修を得意とする。
2010年チェッカー技能検定1級取得。
株式会社CGCジャパンのチェッカーフェスティバル審査員経験あり。
接遇マナーインストラクター取得。
 

最近、ニュースでもよく耳にする「カスタマーハラスメント」対策。
企業がスタッフを守るために、相談窓口を作ったり、対応マニュアルを整えたりする動きが本格化しています。

大切なスタッフの心と尊厳を守るため、会社が具体的なルールを作ることは、とても重要な前進です。

そこで本記事では、明らかなカスハラに至る前の初期対応において、現場が「考える力」を失わないための接客教育について考えます。

接客コンサルタントとして数多くの現場を歩き、スタッフの皆さんと一緒に汗を流してきた私は、カスハラ対策が進む中で、気になっていることがあります。

それは、マニュアルが整備される一方で、現場が「お客さまと向き合う前に、思考を止めてしまう」ことです。

全国の経営者、店長、そして現場で働く皆さんに、あえて問いかけてみたいのです。

「カスハラ対策のマニュアルができたことで、無意識のうちに『思考のシャッター』を降ろし、お客さまとの向き合い方を諦めてしまっていませんか?」

言葉だけが一人歩きした結果、本来ならほんの少しの工夫で防げたかもしれないボタンの掛け違いを検証することなく、

「あ、大声を出されたから、あの人はカスハラ客だ」

と一括りに片付けてしまう現場のクセが生まれているとしたら、それはとてももったいないことです。

今日は、現場で起きている「大声」の背景について、一緒に考えていきましょう。

1. その大声は、本当に最初から「カスハラ」だったのか?

もちろん、最初からスタッフを困らせることや、不当なお金を要求することを目的にやってくる、明確な悪意を持った「悪質クレーマー」は存在します。
それに対しては、お店として毅然と対応を断るべきです。

暴言、脅迫、人格否定、不当要求などがある場合は、スタッフに我慢を強いたり、一人で抱え込ませたりしてはいけません。スタッフの安全と尊厳を守ることは、企業にとって最優先の責任です。上司への引き継ぎ、複数名での対応、専門窓口への相談など、組織としてスタッフを守る対応が必要です。

一方で、現場で日々起きている「大声」のすべてが、最初からお店を攻撃する目的で起きているとは限りません。

お客さまは元々、何らかの困りごとや不具合、つまり「助けてほしい理由」があって声を上げられた可能性があります。

それなのに、対応したスタッフが作業優先・効率重視の考え方で、

  • あまりにもそっけない対応をしたり、
  • ロボットのような真顔で「規定ですから」と突き放したりしたとしたら、どうでしょうか。

お客さまの困りごとは解決されないまま、気持ちだけが置き去りになってしまいます。

実は私自身、過去に苦い経験があります。

翌日の朝までにどうしても購入しなければならない物があり、必死に探し回っていたときのことです。
時間がないという強烈な焦りから、対応してくれた店員さんに、危うく八つ当たりをしてしまいそうになったのです。

アンガーマネジメントや感情理解の文脈では、怒りの背景には「焦り」「不安」「悲しみ」などの感情が隠れていることがある、と説明されます。

このときの私の心理も、まさにそれに近いものでした。

「明日までに手に入らなかったらどうしよう」

そんな必死な焦りを抱え、藁にもすがる思いで質問したのに、目の前のスタッフから「作業のついで」と言わんばかりのそっけない対応をされた瞬間。

その切実な焦りが、一気に「怒り」という強い口調に変わりそうになってしまったのです。

これは、最初から悪意があったわけではありません。
こういったケースでは、お客さまが抱える「焦り」に対して、お店側の対応がほんの少し噛み合わなかったために、状況が大きくなってしまうことがあります。

初期対応の小さなズレが、普通のお客さまの不満を大きくし、強い口調として表れてしまう。
これこそが、現場で防ぎたいボタンの掛け違いなのです。

前編のまとめ:まずは「会話のラリー」をつなぐことから

大声や強い口調の背後には、言葉にできない「不安」や「焦り」が隠れていることがあります。

もちろん、スタッフが暴言や理不尽な要求を我慢する必要はありません。
守るべき一線を越えた場合には、組織として毅然と対応することが大切です。

その一方で、明らかなカスハラと判断する前の段階では、まず相手の困りごとに一歩踏み込んで耳を傾ける。
そんな「適切な一次対応」が、問題の深刻化を防ぐきっかけになることがあります。

マニュアルの壁に隠れて「大声=即カスハラ」とシャットアウトしてしまう前に、まずは会話のラリーを一度つないでみる。

それは、お客さまのためだけではありません。
スタッフ自身が安心して接客に向き合うための、大切な力にもなります。

しかし、

「じゃあ、理不尽に怒り続ける人にも、ずっと寄り添い続けなきゃいけないの?」

と思われた方もいるかもしれません。

もちろん、そんなことはありません。

そこで大切になるのが、スタッフの皆さんを守るための「二つの盾」の使い分けです。


次回予告

来週公開の【後編】では、「自分を守り、お店を強くする『二つの盾』の正しい使い分け方」についてお届けします。

マニュアルをただの防壁にするのではなく、スタッフの皆さんが安心して接客に向き合える支えにするための方法を、具体的な事例とともにお伝えします。

それでは、来週の配信もどうぞお楽しみに!

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