接客で「いらっしゃいませ」が言えない!…サボっている?

「いらっしゃいませ」は最も多くのお店で使用される、代表的な挨拶です。
慣れている方からすれば、意識をせずお客様の姿が見えただけで自然に口から出てくることでしょう。そんな方でも初めて店員としてお客様の前に立った時は少なからず緊張をしたこととおもいます。もしかしたら「いらっしゃいませ」を噛んでしまったり、独り言のように言ってしまったりしたこともあるのではないでしょうか?しかし回数を重ねれば上達する、という認識が一般的です。
それでも、ある程度売場に出て仕事内容を覚えているにも関わらず「いらっしゃいませ」をお客様に向かって大きな声で言えない、スムーズに言えないという人もいます。
「もう新人じゃないのに」「練習もさせてるのに」「ヤル気の問題じゃないか?」
指導する側としては様々な憶測をし、決まったトレーニングや時には注意をするかもしれません。
今回はこの「いらっしゃいませ」がどうしても言えない、という背景を探ってみましょう。
以前こんなお悩みを話してくれるスタッフさんがいました。
どうしても「いらっしゃいませ」ができません。
お手本とか他の皆のように、大きな声で「いらっしゃいませ」が言えないんです。自分では大きく発声していると思うのですが、ちゃんとしなきゃ!と思うほど余計に小さくなってしまいます。家で何度も練習しましたが、なんだか練習するたびに噛んでしまったり、発音とかイントネーションがつかめなくて、こもってしまうんです。
このスタッフさんは真面目で一生懸命で、普段は元気な方なので「いらっしゃいませ」が言えないなんて想像しにくいほどでした。
ですがご本人は本当に悩んでいらっしゃったのです。
この深刻さはご本人にしかわからず、「いらっしゃいませ」が言える人からしたらサボりややる気がないだけだ、としか見られず、つらい思いをされていたことでしょう。
では、うまく言えない原因を整理していきます。
①発音の難しさ
②心理的背景
③体調不良
大きく分けると要因は3つに分けられます。
はじめに①の発音について、「いらっしゃいませ」という言葉を少し紐解いてみましょう。
①音韻の構造
「いらっしゃいませ」の音声を音韻で分けると以下の通りです。
音韻構造(音の構成)
いらっしゃいませ→ /iɾaʃːあいませ/
「い」([i]) … 前舌・狭母音
「ら」([ɾa]) … 有声歯茎弾音(はじき音)
[っしゃ] (/ʃːa/):
「っ」([ʃː]) … 無声歯茎硬口蓋摩擦音の促進音化(長い /ʃ/)
「しゃ」([ʃa]) … 無声歯茎硬口蓋摩擦音 + 開母音
[い] (/i/):
前舌・狭母音(「しぇ」に近いこともある)
[ませ] (/ませ/):
「ま」([ma]) … 両唇鼻音 + 開母音
「せ」([se]) … 無声歯茎摩擦音 + 中母音
こうして音韻でわけると、音だけでも難しい発音なのでは…?と感じます。海外のスタッフさんの発音を聞いたことがある方は想像しやすいかもしれませんが、この言葉の発音は独特です。さらに接客シーンでは明るいトーンや下がるトーンなどイントネーションが加わります。「いらっしゃい」の「っしゃ」は、強く発音され、「ませ」は柔らかく落ちていくようにして、丁寧さも表現されていますし、全体的にリズムよく、のびやかに一息で発声することが好まれますね。
ではもう少しこの発音の難しいポイントを見てみましょう。
・「っしゃ」の発音(促進音+拗音)
難しさ:促進音(小さい「っ」)と拗音(「しゃ」)の組み合わせ
「っしゃ」の「っ」は、英語には無い促進音(止まる音)なので、緊張している場合や日本語を学ぶ人にとって発音しにくいとされています。
さらに「しゃ」([ʃa]) は無音歯茎硬口蓋摩擦音 [ʃ]で、「sya」(海外の発音のようにする)ではなく「しゃ」(ひらたくする)に近い発音です。
対策としては…
・「いらっしゃい」とは言わずに、「いら(っ)しゃい」と、一瞬息を止め練習をする。
「ら」の発音(弾音 /ɾ/)は歯茎弾音 [ɾ](舌を軽くはじく音)なので、「だ」と「ら」を続けて「ら」の舌のかたちをなじませます。(例:「だ、ら、だ、ら…」)。舌を一瞬だけ歯茎に当てて、すぐに離す練習です。
・「ませ」の降下するイントネーション
「ませ↘︎」の矢印部分を意識して、少しだけ下げるように発音します。
優しく丁寧に言うことを意識し、無理に「ま」のあたりから下げようとしないことがポイントです。
本来「い」という前舌・狭母音は発音しやすい音ですが、後続の音に身構えるとスムーズに発音できない場合があります。前述の練習でうまくいかない場合、「らっしゃい」という強く発音できる音だけ発音練習してもよいかもしれません。また「い」の発声を行う口元は笑顔で口角をあげていると大変発音しやすいです。いらっしゃいませと笑顔はセット、で確認してください。
②心理的背景
きちんと発声しよう、大きく言おう、とすればするほど、かえって悪い結果になってしまう現象は心理学においていくつかの名称で呼ばれています。代表的なものは以下の通りです。
①イップス(Yips)
スポーツ選手などが、精神的なプレッシャーや不安によって、普段は難なくできる動作ができなくなってしまう現象です。例えば、ゴルフのパッティングで手が震えたり、野球の投球でコントロールが乱れたりすることがあります。特定の動作に対する強い意識や、失敗への恐れが原因となることが多いとされています。
②チョーキング(Choking)
プレッシャーのかかる場面で、普段は発揮できるはずの能力が発揮できなくなってしまう現象です。試験やプレゼンテーションなど、重要な場面で起こりやすく、過度な緊張や不安が原因となります。イップスと似ていますが、チョーキングはより広範な状況で起こりうるという点で異なります。
③パフォーマンス不安
特定の状況下で、自分のパフォーマンスに対する過度な不安を感じる現象です。例えば、接客の現場のように人前で話すことや、楽器の演奏、発表など、評価される場面で起こりやすいといわれています。失敗への恐れや、他者からの評価を気にしすぎることで、本来の能力が発揮できなくなってしまいます。
上記の現象は、過度な緊張や不安、プレッシャーがストレスとなり、自律神経のバランスを崩し、筋肉の動きや認知機能に影響を与えていると考えられます。また「うまくやる!」と過剰に意識しすぎることでも筋肉に力が入りすぎ、ぎこちなくなってしまうことがあります。そして失敗を恐れる気持ちが、行動を抑制し、本来の力を発揮できなくさせてしまいます。
対策としては…
・リラックス
まず売り場に立つ前に深呼吸や簡単なストレッチなどで、心身の緊張をほぐします。
・意識を集中させない
動作そのものに意識を集中せず、呼吸やリズム、笑顔を一番にするなど別のことに意識を向けます。
・成功体験を積み重ねる
「大きく挨拶できなくてもよい」とし、小さな成功体験を積み重ねることで、自信を取り戻す。
・ほかの人に続いて言う
レジ打ちなどの場合は難しいかもしれませんが、他の人が言ったあとに続けると簡単に言える場合があります。心の中で唱えてから復唱する気持ちで試してみるのもよいでしょう。
・言えない言葉の前に付け足す
「いらっしゃいませ」が出ない場合でも、「どうぞいらっしゃいませ」「え~いらっしゃいませ」は問題なく言える、という場合があります。決められた用語を逸脱している可能性があるためお店の確認は必要ですが、ほんの少し付け足すだけで格段に言いやすくなることもあります。
③体調の不良や病気の面
発音がうまくいかない、そのことを考えると頭がいっぱいになってしまう、「いらっしゃいませ」の発音がそもそも何も出てこない・・・という難発症状が続く場合、吃音やその他声帯の症状、複雑な心理的不調が隠れている場合があります。
辛さはお悩みを話されたスタッフさんの例の通り、ご本人にしかわかりません。専門家へ相談することもひとつの解決策であることを覚えておきましょう。
そして、そもそも健康な状態でなければ笑顔も作れず、印象の良い「いらっしゃいませ」が出せるはずもありません。
接客業は非常に体力を使う仕事です。保健だよりのような内容となりますが、バランスのよい食事、健康的な睡眠時間が確保されていなければ、よいパフォーマンスにつながりません。
「いらっしゃいませ」がうまく言えない、挨拶がうまくできない、というスタッフさんがいてなかなか改善ができない時、もしかしたら上記のような背景を持ち、悩まれているかもしれません。「サボりだ」と決めつけず、様々な視野を持って寄り添い、フォローしていきましょう。
この記事を書いた人

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ライトな話題・ディープな話題・接客に関することまで
幅広く手掛けます。
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